監督、今日ボクを、試合に出させてください!

 監督の、(おそらく)突然の思いつきだった。

『よし、これからは試合前に俺のところへ来て、「監督、今日の試合に出させてください!」と頼みに来ない奴は、試合に出さないからな』

 周りのチームメイトは皆、

『なんだなんだ? 急に何事だ?』

というような表情をしていたが、その後即座に監督の言っていることを受け容れ、試合のある日には、

「監督、今日の試合にボクを出してください!」

と、次々に監督の前に向かっていくのが、このチームの当たり前の光景のようになっていった。

 そこで私はひとり、悩んでいた。何しろ私は、そこまで試合に出たくはなかったし、出たいという気持ちが少しはあるにせよ、客観的に自分の能力を分析したときに、先発で出るほどの実力が私には無いということが分かっていたから、わざわざ監督に頼みに行くことに、なんとなく違和感を感じていたのだ。

 だから、

「出させてください!」

と、言いに行かなくても良いような気がしてならなかった。実力が明らかに足りないのに、お願いに行くなんて変ではないだろうか。

 しかし、あくまで監督にお願いしに行くのは、表向き自由だということにはなっていても、それを真に受けて、お願いしに行かなかったら行かなかったで、

「何でお前は何も言いに来ないんだ! やる気が無いのか!」

とうるさく突っ込まれてしまうことは火を見るより明らかだったので、

「どうせチームメイト全員が、残らず監督のもとへお願いに行っているのだから、いつものレギュラーメンバーが出ることになるだろう」

と考え、

「監督、ボクを試合に出させてください!」

と、嘘の溌剌さを顔に貼り付けながら、試合の日は毎回、皆と同じように、監督の前へ立っていた。