形から入る

 『この手の組み方には、怒りやイライラを自らで抑えていますということを、お客さんへ、あるいは自分に対して表明しているという意味があってね・・・』

 左手で握り拳を作り、それを右手で覆うようにするという手の組み方を教わりながら、

「そんな、手の組み方の意味なんかどうでも良いのになあ」

というようなことを考えていた。随分前にやっていたバイトで教わった作法だった。 

 それからしばらく経った後のこと、あまりにカチンとくる場面に出くわしていたときの私の手元が、自然とあのとき教わった形を取ろうとしていたことには驚いた。そして、そのポーズをとりだしてからは怒りがスーッと引いていったことにも。

 自身の内部で、いまだ怒りがグワーッと渦巻いていたとしても、その手の組み方をするだけで、その瞬間から怒りが引いていくなんていうことはあるものなのだ。

「形から入る」

ことは意外と馬鹿にならない。自身の精神ばかりに注意が向いていると、そういったことには気がつきにくい。