未だに楽しい

 「楽しいなあ・・・」

湯船に浸かりながら、かつての愉快な思い出に身を委ねているとき、思わずそう口にしていた。

 「楽しかった」

ではないのか、と問うてみたが、その問いを否定することもないまま再び、

「楽しい」

という呟きが、風呂場に低く響き渡っていった。

 「未だに楽しいんだな」

楽しかった、ではなくて。楽しいんだ、今も。もう戻ることの出来ない日々を、強引にこの場へ手繰り寄せ、ポチャポチャとそこへ浮かべながら、焦点の合わなくなった目で、

「ああ・・・」

と感嘆の声を上げていた。

 「もうあがろうか」

それにしても、あんまり長く楽しみ過ぎた。少しのぼせたみたいだ。