豆腐屋

 1番古い記憶は何か。私の頭にある断片的な記憶の数々、それを次から次へと口に出して、傍で聞いている親に順序を確認してもらったところ、それはおそらく、というより確実に、

「豆腐屋」

の記憶であるという結論に至った。

 3歳ごろ、祖母に連れられて行った豆腐屋。もっと言えばそこの匂いが記憶の初めだ。あの、大豆が絞られた匂いと、その店の匂いが混じり合った匂いが、今でも鼻腔にふうっと蘇るような気がする。

 親に聞いた話だと、それは祖父母の家と公園との往復の途中にある、昔ながらの小さな豆腐屋だとのことだった。

「たまに公園の帰りか何かに、豆腐を買って帰っていたのでしょう」

とも。

 しかし私の頭には、その豆腐屋より、合計してそれはそれは長い時間をかけて滞在したであろう祖父母の当時の家や、公園に関する映像は残っていなかった。目に浮かぶのはただ、大きな白い塊と、それを見つめる祖母、そしてあの匂いが漂ってくるだけである。