活気が満ちる前後

 遅刻することがひとつの癖のようになっていたのが部活動に励んでいたころのことだから、多分、これから書かれる記憶というのは、その当時稀にしか起こらなかったこと、むしろ稀だからこそ記憶に残ったことなのかもしれない。

 何かの手違いか、他に用事があったからかもしれないが、まだグラウンドにほとんど誰も集まっていない段階で、いち早く自分だけ着いてしまうということがたまにあったが、そのときの空気というのが何とも言えず好きだった。

 別に、その後始まる練習が楽しみだった訳ではない。それから、早く来た分だけ余計に練習できることを喜んでいた訳でもない。ただ、後何十分も経てばワイワイとした活気に満ちるであろうその場所が、今は静かに、まるでそんな瞬間は訪れないとでもいうように、ゆっくりと息をついているのが好きで、私は、活気に満ちている瞬間よりも、そちらの方へ親和性を感じていたのだった。

 同じ理由で、練習が終わった後、誰もいなくなったグラウンドが、微かに土の匂いを立てているところも好きだった。別にその後グラウンドで居残り練習をする訳でもないのだが、あの匂いを嗅いで、私の練習はそこからようやっと始まっていくのだと思ったものだった。