誰に話しかけるともなく

 特定の誰かを捉まえるのではなく、誰に話しかけるともなく話す方が、話自体を長く続けることが出来るというのも、よく考えてみれば不思議なことではある。

 おそらく聴衆の方でも、代表して自分ひとりが聞かなければいけないとなると、自身の反応ひとつひとつがあまりにも直接に話者へと伝わりすぎるように感じられて、とても重い責任を担っているみたいで辛いのだろう。そうすると、気の強い人は、

「もう聞いていたくないですよ」

という態度を露骨に示すようになるし、気の弱い人は、明らかにそういう態度を見せることは無くても、なんとなく聞いていて辛そうなのがにじみ出てしまうようになる。

 話者の方でも、特定の個人、あるいは少数の人々が、もう聞きたくなさそうにしているのを敏感に感じ取ってしまうから、そうなると長くは話せない。

 その点、話者は最初から、特定の誰かを相手に決めずに話していて、聴衆の方でも、聞きたい話であれば聞いていて、そうでなければそっぽを向いていられるというような状況は、話を中断させる要素が少ないから、話が長続きしやすい。

 会話などのコミュニケーションより、一方的にこちらから書くだけというコミュニケーションの方が延々と続けやすいのもその辺りに関係があるのかもしれない。