葬式

 火葬されると、遺体は空中にふわりと浮き上がる、という話を思い出し、じゃあ、今あの人もちょうど、まるですっくと立ち上がったかのように宙へ浮き上がっているところだろうか、と考えた。燃え盛る火の中、閉じられた瞳が、やさしく微笑むようにこちらを見つめているような気がした。

 ふっと息を吐き、廊下に備え付けの椅子から立ち上がると、火葬場の施設内にある和室の休憩場へと戻った。参列者は、悲しみの色をわずかに残しながら、しかし、通夜と告別式を済ました安心感から、多少寛ぐことが出来ているような表情をも見せていた。

 「本当に、惜しい人を亡くしたわねえ・・・」

 「ねえ・・・。」

机に並べられた寿司桶に手を伸ばしながら、参列者は思い思いの悔やみと共感を交換している。寿司は、こちら側が残ったのだということを証明するように、次々と口腔の中へ消えていった。

 澄んだ悲しみと、心地の良いリラックスした空気に包まれ、それが、妙に肌に合わないことを感じる。

「・・・恐ろしい喜劇を続けなきゃならないのは、私たちの方なのだ・・・。」

 参列者は、努めてそれを見ないようにしているのか、それともただ気づいていないだけなのか。そんなことが私に分かるはずもなかった。

 まだ、役を降りることは出来ない。また、降りる勇気もない。醤油皿に染み込んだ油を見つめ、工場に取り残された機械のことを思った。喉がいやらしくべたつくような気がした。