ひとりに還る

 ひとりに還るというのは、きっとそういうことだ。理想が個人を飛び出して、ふわふわと空中に及び、全体を覆ってしまうことほど迷惑なことはない。それはその個人にとっても。

 ひとりに還る、いや還らざるを得なかった人達が、次第に文章の上で、実行で、理想を押しつけ始めてしまうのは何でだろう。全部を覆えるものなどないから、退避してきたのじゃなかったか。避けがたい誘惑、紙の上ではひとりでに何でも解決する、ように見える。

 つまるところ独学に還るより他はない、というのはそういうことなのではないか。他人に押し広げるというのは傲慢で、その人の学問というのは強烈にその人だけに該当するものなのではないか。他人がそこから何か受け取るとすれば、それは話の中身ではなく、その姿勢みたいなものだけだ。ひとりで、自分だけの学問をしなければならないというのは、きっとそういうことだ。