一度きり

 ひとつの人生、まあその場合、

「ひとつ」

が何を指すのかも分からないが、私が私以外になり得ないということで、一旦は納得がいく。

 では、一度きり、一度きりはどうか。ひとつと区別がつけにくいが、ひとつである私の人生は一度きりか、どうも違うような気がする。複数であるものが、同時に、いやバラバラに進行していないか。

 かつてのアルバイト先の先輩とふいにすれ違う。会うまでは全く忘れていた顔だ。そこには、あっという間に思い出す、ひとつの私があっただろうが(ひとつでなければどうやって思い出すというのだろう)、現在と、過去にまつわる人物との混ざり合いを前にして、一度きりを生きているという感覚はどうしても芽生えてきようがなかった。