<2>「彼(2)」

 翌日から早速、絵の前に立った。鏡の横にかけておいたのだ。思った通り、どうやら鏡に映る自分より、描かれている自分の方が本当らしかった。これは、俺だけで見ているのは勿体ない。友達にも見せてやらなければと思い、友人を2、3人招待した。絵を見ると、皆口を揃えて、いやにいいね、と言った。うーんとしばらく唸った後で。あんまり嬉しいから今日は彼の奢りで一杯やることにした。描かれたものからかけ離れたような空間で、俺は上機嫌だった。日本酒を2,3合やったところで、酔いが気持ち良さと悪さとの合間を経巡り、トイレに立った。しかし、おかしい。鏡を見つめると、上気した顔には、外側に対する視線が取り戻されていた。快とも不快とも思わなかったが、あれ、あれと小気味よく口ずさみながら、席に戻る。相変わらず酒を飲んだ。ビールが苦手だという友人が、勧んでビールばかり飲んでは嘔吐していた。グラスに映る俺の顔はやはり明るかった。酔いが回っているときだけはどうもこんな顔に戻るらしい、と考えていたが、その日に撮った記念写真を翌日に見て、絵とは程遠いもののやはり同じ徴候を示しているのを確認して安心した。安心して愕然とした。俺は、この顔以外にはなりたくないと思っている・・・。