<37>「アトハアトハ」

 跡がついた、ここにもあすこにも。大きな口を開いて待っている。べしゃりと吸いついた。舌先が、ゆるやかにしびれる。舐めたそばから、跡は大きく拡がっていく、ぐわあさっぐわあさっ。熱を持った壁は、呻くようにして体をくの字に曲げ、大きな口を丸呑みにしようと身構える。構わずにべーろべーろとしゃぶりつき、円を描くようにしながら全体を覆ってしまおうとする、が、

「そこじゃない」

跡は冷静に着地をすると、地面を這うようにして、また拡がった。跡、あと、跡でないものが無くなって、何が跡か後は俺だけか、ああ後がない。後ずさりしたその手に、がさりとした物が当たる。震えがひと巡り、ずるずるずるっと啜りあげ、渇いた舌だけポトリと落ちた。