<53>「混ざった」

 それは思い出と言えるような類のものかもしれない。自分の現在の考えとはどうしても思われぬし、それに猛威を振るわれているようなこともない。しかし底の方に沈殿し、使われなくなっても尚、僅かばかりの位置を占めているそれ。意識しないで放っておけばいいだろう、しかし、意識しなければ状況は今までと同じで、優位は占められないまでも、不快に残ったままなのではないか。しかしまた、意識するとはそのものと絆を深くすることでもある。引き上げに一役買ってしまうようなことになったら面倒だ。よし、意識はしよう、そしてブクブクと浮かんできたそれに、何らかの説明を試みる。尤も、そんな説明を受けるまでもなく、相手はそんなことを承知しているだろうが、これは説明をして分かってもらうために行うのではない、言わば最後の念押しのようなものだ。それを終えた後、また意識しない状態へと戻っていこう。はじめから意識しないままでいるのとはいくらか違った結果がもたらされることを願う。