<87>「虚しさとしんどさ」

 虚しいからしんどいというのは幾分怪しいのではないか、しんどさを感ずるときにそのように表現するのが便利なだけで、どうもそんなことには関係がないような気がしている、つまり何の価値もない、それは価値というものがあると考えて初めて実現する嘆きであって、置かれている状態にそもそも価値という言葉は入っていない、どこからかぐいっと無理やりに持ってきたのではないか。であるから、何か人間を超えたものに守られていて、それを信じていられた時代は幸福であり、それらのことが破られた後の人間は虚無に苦しむようになったと簡単に言われるが、そんな馬鹿な話があるだろうか、価値だとか虚しさだとかはひとつの方法であって、いくら方法を持ち出しても、人間はそれだけで覆われる訳ではない、つまりなんだか分からないけれどなんだかしんどさ、これは辛さそのものとするよりほかなくて、人間の考え方の移りにはそれほど影響されないものなのではないか、同じ位置に頭があり、そこから肉体が下までのびていて、それで見方が変わっただけでいきなりしんどさが変わるなんてなことがあってもいいものかどうか、あって悪いなんてことはないのだけれども。