<127>「大きな声を出す」

 大きな声を出す場所がない、別に出したっていいのだろうが、結果迷惑になり、不必要に他人を怯えさせることになるのは間違いない、声を張り上げるのも好きではなかったし、

「もっと声を出せ」

としょっちゅう言われているぐらいのもんだったから、まさかと思って気がつかないでいたが、野球という、大きな声を出すことが奨励され許容されている空間というのはなんと貴重な場所であったかということに思いを馳せている。私にとっての野球の良さはそこの一点に集約されると言い切っても良いぐらいだ。ネガティブなことばかりではない、自身の中に滞留した怒りを、「ワッ」の一言で外に出す、爆発的な動きによって、後々ぶり返すにしてもとりあえずそこでひとつの区切りをつけることが出来る、ちくしょうという叫び、それが「ワッ」という一言でとりあえず流れる。それはもうしつこいぐらいに声を出し続けていたから、知らず知らずのうちに怒りやストレスが流れていたのだろう、何ともスッキリしないということには当たり前だがスッキリしなくなってから気がつくものだ、大きな声を出す場所がない、思わず出してしまったりするのだけれども・・・。