<148>「持っていないものを、奪われる」

 何かが奪われるという感じが伴う。決して私が持っていた訳ではなかったのだが。何かが奪われた、その人も自分で持っていた訳ではなかったのだが。所有していないものを奪われるはずがないだろう、つまり何も奪われやしなかったということなんだよ、と言ってみたってどうも上手く行かない。所有していない感覚は確かなのに、奪われたという実感は非常にハッキリとしているからだ。

 持っていないものを奪われるということがあるのかしら。もうダメであるということを悟って、速やかに立ち去る。私たちとは違うリズムに移ったのだった。丁重とか救うとかいうことを揺らがせて。