<238>「知らないうちにここへ居て」

 自分がのめっていったのは、それにのめっていくことの効用を先に知っていたからではないだろう。のめっていかない人に対し、だからその効用を説いたりするのはちぐはぐなことだし、自分がのめっている対象にもそれは失礼なことになる。そんな、これにのめるとどんないいことがあってとか、こういう効果があってとかいうことを確かめて、一応の安心を得た上で・・・なんてケチな仕方で好きになった訳ではないだろう。言わば、巻き込まれるようにしてズルズルと引っ張られていったのだ。つまり、優位は対象の方にあって、自分が何かのめっていくための工夫をした訳ではない。引っ張られていったということを率直に語ればそれでいいのである。のめらない人を、自分の説き方次第で無理やりにでものめる方向へ持っていこうと考えること自体がもうケチなことである。