<261>「夢には似合わない」

 時々の説明は、理解のし難さだけを強化した。会場をスッと抜けていく姿を追いかけて、若者は足を速めたが、何も、逃れるというような有様ではなく、ただ家に帰るような足どりだったので、急ぐのをやめ、そのままついていった。途中、休憩なのか、公園のベンチに腰を下ろすと、老人はぼんやりと首を上げた。若者は挨拶し、隣に座る。いなくなるということはないのだよ、そんな言葉がひとつの逃避にしか聞こえなかった、尤もこの誤りを若者は後、老人の死に接して気がつくのだが、このときはまだどうしようもなかった。老妻は、浅い眠りの錯乱した夢には似つかわしくないのだよ、それはあなたも知っているでしょう。夢を見たのは若者だ、だからこうしてここに来たのだと確信していたが、若者はそんな夢を見ていない。こうしてただベンチに何の訳もなく座っていると、感じるべきものは何もないのだという気持ちに誘われていく。それだけのことだった。