<286>「夢から剥がれて」

 夢の光景があまりにもゴチャゴチャしていて、起きてすぐには気がつけないにしても、しばらく時間が経つと、起き抜けに夢の中のあんなことを本当のことだと思って、一瞬でも頭がそのまま動いていたという事実に、思わず笑みがこぼれる。そこには順序も辻褄も何もあったものではない。

 しかし、更に時間が経って、仮にここではその夢から一年経ったとしておこうか、あの夢は依然として私の中でゴチャゴチャであるのかどうか。勿論、全体を思い出せれば、なるほどゴチャゴチャだったと言えるに違いない。しかし、場面場面をバラバラに思い出したとしたらどうか、その現実らしさたるや。一年経った後の私は、そもそもその夢が一年前のものであったことすら忘れ、しばらくその、過去の夢の一場面を現実と同等に認識してぼんやりした後、いやいや、あれは確か現実ではなくて夢であったのではないかと、ブルブル頭を振っているような具合だ。

 もしかしたら、更にもっと遠い日に見た夢など、頭の中では当たり前のように、過去の事実として扱って、反芻していたりするのかもしれない。