<293>「冷静な手のなかで」

 あまりよく見ていないものから現れる冷静な手のようなもの。それがいつまでも鳴り続けて意識を濁らせながら回転していく。二度と通らないという約束を反故にして尚進む中で痕跡は慣れない左足で消されたのだった。否、私はそれを右足ですることを拒否したのではなかったそうおそらくただの気まぐれから。同じ動きでありながら微妙に、しかし確かに力が入っていないことを喜んだのも束の間、不便をあえて取る面倒さとおかしさでしこたま疲れてしまうのだ。夜の長いベッドで上と下とどちらに合わせてみたらいいだろう真ん中にただ置かれることは何となく気持ちが悪いのだったが、それも大した問題ではないので真剣に考えられないことが逆にこの問題を難しくしているんだ。うるさいはうるさいが、耐えられない程ではない騒音をのべつ聞いていると、このまま静かになっていくのは私だけだと素直に考えたものだった。