<353>「雪崩」

 これだけ魔性であるからといって、何か支障がありますか。一度きり駈けたらいいでしょう。よく燃えているものと聞きますが、私もそう思います。全身溶け出して、そこまで染み入ってしまったとして、何か批難されなければならない理由がありますか。永遠を丁寧に巡ったらいいのでしょう。ここからの景色は霧がかって見えますが、いつでもそうだと思います。

 払いのけるそばから、立ち昇る煙の中に身を置いて、行方をくらましたのだとしても私は何も言いません。風も何もない日に、痕跡の一切を留めないのはもっともらしいことです。微笑みは、季節を移しました。行くあてもないかと部屋の隅で、鈍い明りが溜め息を揺らします。