<437>「砂の中に溺れて」

 溺れる者を襲う波の激しさ、水の冷たさには容赦のないところがあるのだろうが、溺れない者の砂漠にも、広さ、そして底なしの深さがあった。

 じりじりと、熱くもない、夜も訪れない、真昼間の連続、視界の明瞭、喉の渇き、渇き・・・渇き? どうやら、水を必要としないようだ。食物はおろか、水さえも持っていない。もっとも、それは必要がないからだろう。

 液体の上下動、左右へのぐらつきは、何かを足してくれとは叫ばない。そう、水さえも。叫ぶ気力がないからではない。最初から、そうした進み方をしていなければ、こんなものだ。

 反発のなさ、しかし手応え。潜るほどでもない、潜るほどではない。あれは、景色の繰り返しでなくて何であろう。太陽の姿勢は変わらない。どうあっても溺れないことが愚かであるとかないとかいう考えを捨てたら。