<466>「善悪ではない」

 大して悪くもないが、当然良くもないという状態に置かれる。置かれるというより、そういうものが存在だと確認することは難しいことなのだろうか。いや、それ自体は別に難しいことでも何でもない。そんなに良くもないが悪くもない、そんなもんだということはすぐに分かる。では何が難しいのか、何処に困難があるのか。それは、その中心が揺れているというところにある。その事実を確認することではなく、その事実の上に立ち続けることに困難があるのだ。

 良い方も、悪い方も、

「ほら、ほら、こっちへ傾け!」

と、執拗に囁き、また、ひっぱり続けてくる。その誘惑に乗っかって、とりあえずどちらかに傾いておくと、フラフラしていた足場が、傾いた先で安定するのでホッとする。ホッとするという事実をごまかすことは出来ない。自分を、良いと思ったり悪いと思ったりするのは簡単で楽だ。しかし、安心しているその頭脳の傍らで、どうしようもなくこういう音が鳴っている。

「違う、あなたの中心はそこではない」

フラフラしていて不安定なその場所こそが中心だと。褒められるほど良くもなければ、延々と罵倒され続けるほど悪くもないという、そのどっちにも行けない場所こそが中心なのだと。自分を良いように言ってみたり、悪いように言ってみたりするのは全てごまかしに過ぎないのだと。