<482>「覚知」

 今、私には、あなたの放心が解るのかもしれない。曖昧な視線の行き先が、来し方が、ここに開いて、すると私のなかに、同じリズムが鋭く光る。

 今、私には、あなたの停滞の意味が解るのかもしれない。何故かは知らないが、随分と動き回ってしまった。細かな震えがとにかく多くなり、それが、目に見える範囲という範囲を逸してしまったから。

 今、私には、あなたの無反応が、少し解るのかもしれない。目の玉と、緩くなった口とが、ここがあんまり長くあることを知らせてくれるから、時間を、ひとつかふたつ、大股に飛び越えた先を見たような気がするんだ。

 物語というものが、順調に解けていくのはさてどうしてだろうか。瞬間の数が、あまりに多くなり過ぎると、この場はもう、混乱としか言いようがないところとなる。私だけでなく、そのことがよく分かるだろうと思う。