<495>「呼吸が見えない」

 例えばその一歩が、今ここに下ろされると、可能な限り遠くから、ぱた、ぱた、ぱた、と、必要なもの、必要でないもの、全てが伝わる。

 故に、以前にも見たことがある、そんな気がしたのは、間違いでなかったし、偶然でもなかった。出来れば遠くから、順番に伝われば分かるものを、それは私が選べたりしない。

 だんだんと、大きくなるのが、そこまでの道だから、よーく聴いていて。驚き、ふるえたりしない。その代わり、延長された線を、懐かしいほどまで渡り切る。

 おお、おお。何故か、何ものまでもが通る場所だと思われた。人物と人物の検討を避け、情けのないこの一本の流れへ。一本の、ひたすらの流れへ・・・。

 丸み、軽み、ブクブクと、帯びてこの薄い空洞のなかへ、楕円形に光を受け取る、この空間のなかへ。不自由が、音もなく抹消される。まだ、ここに呼吸は見えていない。