<499>「渦のなかの人」

 後から言えば、それはそうなのだよ、ということが多過ぎて、他人がこういった発言をしているのを聞いたときも、自分がうっかりこういうことを言ってしまったことに気づいたときも、同じように嫌な気持ちになる。この、どうとでも出られる感じ、何もかも分かっていたような地点から、偉そうに振舞ってしまう感じがたまらなく嫌なのだ。

 そういうことは、前に言わなけりゃしょうがないんだよ、というのもまあ確かにそうなのだが、そうではなくて、前とか後ろとかがまるで関係のない地点にいたい。予言めいたことや、後出しにしかならないことは、なるべく口にしたくないと思う。

 現在時の、混乱と、迷いと、そのことでどうしようもなくなっていることだけを語りたい。現在人という立場を放棄していたくない。結局その流れのなかにあるとき、そこには流され方が幾通りかあるだけで、全体の景色など本当は分かっていやしないんだ、という場所から自分をズラさないのが、今生きているということに伴う責任なのではないか。