<602>「足す」

 可愛げがなくて苦しい立場になっている人、可愛げがあってそのことにより様々の恩恵を受けている人、それらは人の自然だ。生のままで、美しい。一番汚い、醜くて見ていらんないのは、

「可愛げがないんじゃあねえ・・・」

「せめて可愛げを身につけなくちゃ」

「可愛げがないからああいうことになる」

と、分かったようなことを端っこから足しているような姿だ。生のままに、余計なものを足すな。そもそも足していることにすら気づいていない。ただ可愛げのない姿が、生のままの姿だということが別に分からなくてもいいのかもしれない。

「あら、意識があるのなら何か一言言ったらどうなの?」

「ははあ、はあ」

「何にも言わないんじゃ、あなたには意識がないのっさ」

カラカラカラ、と笑ってくれれば、怒るなどして安心もしたろうが、ははあ、はあ、ははあ、はあのリズムはここにあり。コツコツとした覆いの内側をゆっくりゆっくりと回ったのさ。