<609>「柔らかく跳ねる方へ」

 おかしな冗談が、このままと言っても良いぐらいだ。誰ということもなく、静まり合って、もう間もなく大方が踊り出すであろうことを、遠い遠い物言わぬ空間だけが悟っている。あれはお前の心持ちだけで片付ける訳にはいかないことだよ。うん、と頷くと、この人は何も分かっていない人なんじゃないかと思われそうだ。それで、控え目に一度だけ覗き込む。俺の考えは驚きとは折り合わない。ひたすらに黙って伸びていく一枚の運動を眺め、あら、うわわあと、一瞬だけ怖くなってみたりする。ただ、それも一瞬だけだ。おかしいな? 思いがあちこちで湧き上がり、うっかりとぶつかりがこちらでちょろちょろ、あちらでまたまた、これではまたみんなしてひどい寒さになるしかないではないか。

 どこかへ戻るという考え方は、本当は良くないのだと。そうだ探しているのは、どこかへ戻る道ではない。より柔らかく跳ねている方へ(善い方へ善い方へなどという言い方をするのは気恥ずかしい)。