<739>「くち」

 私だけの口。

口、改めて吐き出す。

わざとらしく、汚れて増えて、ひと口。

ひと口のうちで一番尊いもの、悠長な夢。

口だけで出さずにはいられない。訊ねたがりのふるえ。

口々になら、言えるこころもあって、口と口ではふさがらない。

態度でだけ、口と態度でだけ、あたかも中心に見える。

ふたつごと、口ごと一緒に飲み込んでしまおうか。

口に、なにとはなく応えて、ひと口、みくち、おそばで行儀よく、口数もものの数、出鱈目に増えただけ。

口から溢れてたれの目にも触れる。赤い、赤らしい、赤らしくいやらしくなぞなぞ、人肌をゆっくり撫ぜるなぞ。

とてもとてもと縦になる。またまたまたあと横になる。口になる。生涯で一度だけ口になるはずの、あなた。

 私だけの口。

口、ふざけながら編み出す。

ここははやく、破れて枯れて、ひと口。

ひと口のうちで一番尊いもの、酔狂な癖。

口混ぜて貸さずにはいられない。まねたがりの抱え。

口々になど、触れる子どももあって、口と口とで飽き足らない。

感度でだけ、口と感度でだけ、あたかも今はふいに見える。

ひとつごと、口ごと一緒に噛みきってしまおうか。

口々に、なにからなにまで渡して、ふた口、みくち、起きれば機嫌よく、口角も泡の数。一度目で見てただけ。

口から別れて彼のことに気づく。若い、若いらしい、若々しくいやらしくなどなど、ひとごとでゆったりかかるなど。

とてもとてもで嘘になる。またまたまたあと本当である。口になる。将来に一度だけ出会うはずの口、それがまた。