<767>「視線のない踊り」

 あなた、誰かに顔が似てますね。いやですよそんな、ほかへ行って言うのよしてください。ねえ誰かの顔に似てるだなんて、そんなふざけた話がありますかしら。あらやだ、ちょっと目と鼻と口の数でも数えていたらいいのじゃないの。誰だって顔でさな、似まさーな。ふたつくれ、ふたつくれろよ参考に。膨らんで、また捨てて、いちいち名前をつけてくれてて有難さのなかでいつもより似なよ意識するとしないとにかかわらずだよ美しい。

 このやろう、人間なんぞに生まれて、あげくに死んでいかねばならないんだ。こりゃ驚いた、あんたそっくりそのまま生まれないつもりなんだね。後ろを見、前を向いても見つかりやしないあなたが充分に弾ませたところでひとり残らず見向きゃしない。ふざけてるよ、ただなんとなくふざけているとあたしには段々似てくるのさ。存在がどうとことんまで分からなくなっているところを見るとおい、一体どこから出てきやがった。

 いつものなかで目一杯踊るなら、見物人はいない方が良い。第一見物されるなかでの踊りとは何ですかそんなものあたしは見たことがありませんよ。完全に溶け出した、よだれしかない踊りみたいなものもつまりは見たことがないけれども当然私はそれをイメージ出来る何故なら誰にも見られていないところでこそ踊りが華やぐことをひとりでに確認しているからでしょうがあっちへ渡りなさい、雪が落ちる。道幅はむっと膨らんでいるから・・・。