<777>「二人に増えたい」

 ああ、そうだろ。当たり前だろ。一致していないんだ。誰だよバラバラに喋るんだろ。

 夜、よぎってはならぬものとともに、極めて自然に言葉を転がす。ところがその、柔らかい顔のなかには、未知の、それ自体爆発しか期していない、混乱した匂いがあった。ひとつ進める。ところどころ僅かずつずれて遥か遠くまで伝わる。すると、私には聞いていないものまで先に聞こえていた。いやあえて聞こえていなかったとしても良し、と考える。それで、対応には何の問題もなかった。無理に抑えられている箇所があり、何の為かは分からない。

「思うに、誰も分からないからこそ、ここで抑えられているのじゃないか・・・」

納得か、否か。それではちょうど表情にはならないのだよと、まさか涼しい顔の上に厚ぼったい行方や風となってまたがる。

 くちのハ、それも、含んでいて、暗闇のなかから断片として不安の様を浮き上がらす。おい、そのお前の角度、時々訪ねるもの、情けにならず響く声、いや、音と判断してよいか。苦しく揺れ、あくまでも人ひとりの視線を捉えるもの、捉え続けるもの。わたせわたせばいい・・・。俺は初めて二人に増えたいと願う。ここでは言葉が狭い。あちこちにぶつかる、と考えて心は、小さな染みをぽつ、ぽつと壁につけ続けてゆく。染みの上で緊張に触れる。届いている。そのそば、私のそば・・・。