<837>「露が弾む」

 おれの声が漏るひとつの露(つゆ)だとしようよ。それは通過、通過。今響くように、見ていたものを見ている。鳴き声、まさか、このタイミング以外で起こらない。

 「気づかなかったか?」

 はて、何を差すと思う? 指だとして、どこを見ると思う? そのとき、冷静な着地が、それぞれの胸のなかへ、すっ、と滑る。例えば大きな事故の場面は不思議に静かだった。言うなれば、目を、逸らして後(のち)視線的な緊張は高まった。妙な、身体(しんたい)の接近、それから、ひとつぶごとの不安と面白さ。明らかになり薄れまた濃くなる温度、そのひとつひとつ、集合したあとの、まるで関係がないと思われる、静かな着地の瞬間までを想起してみてごらんよと言う。

 「私は気がつきました」

 私は肉体の波うち、不揃いな笑みの起こり、の中心で曖昧になった、一本の棒、こころもとない、棒として立っている。たれか物事の全くの偶然、小さな数字が素直に入ってくるとき、驚いた私は泣いていた。例えば、時間はここへ集まった。飛び飛びの場面が、自身を面白がり、また、さらにひらめく。

 こは、感情で、あるいは微細で違いに気づかない様々の種のスイッチで、熱情風景は無言の姿を見せる。誠意の代わりとして、何も汲まない。それは、気まぐれに帰ってきただけだった。それ以上の言(いい)はなく、私には軽さが必要であった。記憶のまろやかな打ち方にしばらく浸(ひた)っている。異音の愉快さ、たまたま、意図も分からずに、視線を得(う)る。しかし限定の、さびしい物音・・・。