<874>「真白な香のそばに」

 不分明な、文字のそばで泣いている。

 訳(わけ)を告げない、意図の不明な速さのなかで、あるいは語りかけの間合い、小さな溜め息が、私のすぐそばを過(ヨ)ぎる。

 華麗に、鈴の、振れている・・・その、無音の表情に、四角く打たれている人(ひと)、また次ぐ人(ひと)、の、微かな動き、が映る・・・。

 彼、は、なかば回転のなかで真白な言葉を揃えた。

 私、は、行くあての僅かな緊張性のなかに、知らない言葉を次々に見ていた。

 何をか、しら、それは突然、ひらかれた笑み、に気づくと、徐々に、また徐々に、あるいは別れを知らぬ脳裡に、ひらめいたままで残りまた熱を持ち始めている・・・。

 角度を変えて、私の知る限り遠くへ、その声をして運んでゆく・・・と、いつもと同じところへ戻ってくるのが見える。

 彼方への一歩、の音をきいている、その姿は、おそらくどこまでも震えていることだろう。しかし、ある種の衝撃が、私が踏むのをおそれていながらなお踏むことによって、ここにしっかりと現れるのなら、その光景が、とにもかく大きな音で、きらびやかになる、だろうことが分かる。

 揺れているものに乗り合わせている私の表情はどうだ(青いだろう)。勢いに任せて吐き出したあと、身体(からだ)はまだまだ振るっていることに気づく。大きな声で笑いたくなる。勇気などはない。ただの歩行が勇気をも上回り引き連れるだけのことだ。