<934>「窓にわたしの匂いが混じる」

 ふかくなるヒ、の背後に走る。

 全てに溶けていた。全ては訳(わけ)もなく手のなかに収まっていた。

 お前が語り、お前が眩む、場(バ)は緊張するほどなにもない。

 照らされ、映り、やけたヒになって遠くまでのびている、、すると、お前は新しい。

 得体の知れない小さな穴のわたしだ。その場限りの音(おと)や音(おと)や、丁寧に染み込ませてゆくのはなにだ。ひとは声だ。紛れもなく振るうはひとのまなざしだ。

 音(おと)は過ぎ、愉快だ。たくみな迷いのなかにいて、泡を吹き、煙を咥えて歩み出す。

 わたしは大層な響きをごめんこうむる。ひとは単調な左右のズレに終始するから。

 けだし、全速力の幻影を、止(ヤ)まぬリズムで眺め続けているのが、日と日なのだろうか・・・。

 わたしは、ずっと先にいる。わたしは、今を全力疾走のなかに消してしまおうとする揺れのことをぼんやり考えている。

 切なくちぎれたものの上に手を添え、小さくつぶやいて、また風のなかに混じるとき。

 お前の眼が差す方(ほう)へ、あるいは盲滅法の彼方へ、全速力は聞こえている。わたしが倒れなければならない(本当にそうだ)とすると、ひとつの滑稽が姿をあらわさざる、えない。

 窓にわたしの匂いが混じるとする、と、ヒはおのの言葉の使い方を少しためらってみせるだろう。

 眩しくて、透明の一個になり、動き出す・・・。