<1043>

 「おほん」

 「・・・」

 「画家とは、つまり」

 「はい」

 「画家とはつまり、だね」

 「へえ」

 「画家とはつまり、流動するひとつの絵だ」

 「なんて」

 「画家とはつまり、流動するひとつの絵だ」

 「は」

 「いやだから、画家とはつまり、だね」

 「へえ」

 「もういいね?」

 「そうでしょう」

 「気づきました」

 「気づきましたね」

 「なにに気づいたかはまたあらためて言うこともないね」

 「そうでしょうか」

 「そうだと思うよ むしろそうだと思いたい」

 「不思議なことを言いますね」

 「僕にはその、あなたの心づもりというか、態度の方が不思議であるな」

 「と言うと・・・?」

 「と、問われて、ともかくもこういうことだ、という言葉を、あいにく今の僕は持ち合わせていない」

 「ははあ」

 「どう?」

 「感心しました」

 「本当に?」

 「本当に? と訊かれましたらば、嘘だとこたえたい、そう思います」

 「なにですかあなたは」

 「なにですかあなたは、という問いがもうわたしにとっては不思議のなかの不思議ですな」

 「それはそうでしょうね」

 「たれか絵を描きますか」

 「描くのでしょうね」

 「そうすると」

 「そのことそのものによってズレが生じるでしょうねえ」

 「どうしても?」

 「そう、どうしても」

 「はあはあはあ」

 「そうすると、どうしてだ?・・・と言われても、その移り方というのは自分でも分からんでしょうな」

 「そんなもんですか」

 「そんなもんでしょうね、説明できなきゃダメ、というけど、それは生理的に嘘でしょう」

 「嘘ですか」

 「ええ、、ただやっているうちにこうなって、こうなったからにはこうなるよりしょうがないという、喜びでも悲しみでもない、ただの事実があるだけです」

 「はあ」

 「同じところをぐるぐる回るつもりだったとします」

 「心の持ち方としては当然あるのでしょうね」

 「しかし同じところをぐるぐると回ればズレます」

 「人間だもの」

 「ひとはどういう訳か生きていますからね」

 「おかしな物言いをしますよそれは」

 「つまりね、画家とは、、」

 「もう止しましょう」

 「それもそうだ」