<1152>「路地に重なる」

 良し。

 あれよ、あれよというマに、

 揺れ連れられてきた。

 歩道にけつまずく。

 ひとつの風景に帰した。

 徐々に、徐々に、揺れはひろがり、

 わたしはまた歩きやすくなる。

 

 さんざばら話していた言葉の中を。

 

 ひとつの割れを、

 割れを眺め、静かに持ち上げてゆく男を、

 男は去る。 また戻ってくる。

 腕が垂れる。 汗が見える。

 

 昨日と今日で、なんら変わりのないものに、ただ話している訳ではないから。

 誰かが道をアける。

 いつものままで男が出てくる。

 話をしない。

 わたしは静かに布を重ねる。

 

 並ぶ、並ぶ。

 小さな穴以外のことを長く忘れて。

 リズムと先生を思い出して。

 先生には見たこともない姿が重なっていた。

 

 誰ぞが走る。

 誰ぞが走り切る。

 舞台役も見物も、通りすがりのお爺さんも、ここでばかりは息をはく。

 

 また、歩き出すと同時に。

 また流れ出すと同時に。

 ひとは見物を忘れて、辺りをウロウロすることになる。

 

 男が通る。 誰も気がつかない。

 いや、気がつく必要が起こらない。

 男は額に汗し、無表情で過ぎてゆく。

 何が見物かは知らず、

 何が違うのかは知らず、

 

 歩く、歩く、歩いている。

 当然のように明日からは風景に帰り、もしやとまたぞろ引き出される人。

 風景でも、舞台役でもなく、そばを過ぎ、去っていく男。

 その背中を見ていると、ぼんやりして、

 路面のなまの匂いにあてられて、

 あなたがけつまずく。

 ひたすら同じ路地に重なるあなたを、

 けつまずきが不意の遊びになる時間を、

 ひとり華やいでいる。

 華やいでいることが何かを知らず、

 知らなくともそれはそれでよく。