<1169>「穂の朝へ」

 明けろ 明けろ

 明けたら穂が揺れる。

 明けたら また改めて穂が揺れるだろう。

 瞠目、静かな匂い。

 僅かな時間、

 新しい快哉のその、

 

 とびきり美しい笑み、

 とびきりたおやかな日の午後、、

 ただ流れのなかに浮かび、

 ただ一切が望郷で。

 

 望郷のなかの一途、

 一途のなかの具象、

 具象のなかの移ろい、

 寝て、寝て、寝て、、寝て、醒めている、

 

 ちょうど心地良く、

 季節も、うたいも、身の軽やかさも忘れて、

 穂のなかをゆき、

 それに応え、、

 腰をただに落としてゆく、

 

 会話だに知らない

 音声(おんじょう)などもまた、

 ただ涼しく、やらかく膨らんでいた、

 赤みがかった、

 今生は永遠に夢を見ていた。

 

 知らん知らん知らん、

 またはぼんやりと、

 子どもの頃の等しい夕べにひとり小さく浮かび直すように、、

 まだ香気溢れてそのままに眠ることも知らぬ頃へ、、

 ひとり舟を出だし、

 もんくも、うたいも、波も知らぬ、

 ただ揺れ、揺れ、揺れて揺れ、、

 黄金の小さな粒の上へ、

 かかる、かかる、、かかる・・・

 

 穂の朝に、

 空気はぼやけ、湿り、右左に流る、

 あとはただ凡、

 あとはただひらひらと世に浮かぶ、

 隙間から差す眼、情意、光、

 あとはただ光り照るなかを、

 穂を目指せ、穂を目指せ、

 明かりをいれといで、

 この器に今生の目印を、

 さあ光れ、さあ照らせ、

 いっときをともにいたしましょう、

 さあ舟、さあ舟、、

 今生は何処へ揺れ出でましょう、

 さあ、さあ、さあ、