<1184>「夜の舟」

 ややあって外界は眩み、

 かすかに、しかし長い音が続く、、

 そのときは誰も表情を覗かなかったのだが、

 身体ごと隙間に沈んでいたと見え、

 流れの先端に何が、

 流れの先端に何が、、

 あ、あ、という短い響きが、

 裏へ、裏という裏へ、、

 おそろしくて眠り込んでいました、

 

 伝ってくるもの、

 次から次へ差し込まれ、

 目覚めたり、眠っていたりするなかで、

 徐々に、

 徐々にではありますが、

 わたしは別の時間なのじゃないかと考えるようになりました。

 それに、なにかがもごもごと口の中で鳴るのです、

 ふいにこのまま開かれ、どこまでも遠くへ、

 それも緩やかに、それも自然に、

 疑いのない速さで滑り出るようにして、

 放り出されてゆくのではないかと思うんです。

 

 時間は、ひとりで立ち始めています。

 いまや、わたしの感応と、

 あなたの共感の身振りとが、

 たとい同根であれ違うものだという考えを放ちます、

 

 さて、ここに線を置きました、

 違った姿で、

 試みに、それを触れてください、

 例えば懐かしい景色になります、

 例えば長い歌になります、

 例えば今考えていたことを忘れます、

 今生は身振りですから、

 なるたけ音を見してください、

 揺られたままでいます、

 

 夜毎に舟と、舟で、

 水の中へ手を入れながら、

 かきまされ、

 舞って、舞って、

 てんでばらばらのくぐもった匂いを見せるとき、

 片側の舟はゆっくり遠くなり、

 影に、、点に、、小さな揺れになり、

 ただいちにんの音しか確かめえず、

 さて、さて、歓迎も、

 非難も、驚きもなく、

 戸惑いもない人をすっと乗せたまま、

 こちらへ、こちらへ、

 いまだどこへ打ち上がるかもしらず、

 口を結んだまま、

 長い音を立て、繰り返し・・・